HAKODATEcoffee-poster
昔、大学生の頃、友達のアパートの部屋で飲みあかしてそのまま雑魚寝してなんていう、絵に描いたような青春の風景が僕にもありました。ある日、翌朝というか、もう昼近くになって、気だるく目覚めると、その部屋の住人である友達がコーヒーを入れてくれたことがありました。それも、豆から挽いてサイフォンでたててくれたのです。コーヒーが出来上がるまでレコードをかけてくれて、漂ってくる香りとレコードの柔らかな音が相まって何だかすごく印象に残る記憶になっているのです。僕は家ではいつもインスタント・コーヒーしか飲んだことがなかったこともあって、すごく贅沢な時間と感じたのです。ジャケットから取り出し、丁寧にクリーナーで盤のホコリをとって慎重に針を落とす……そんなレコードをかける手順のように、豆を挽くことから始める手間、そこに心がこもるように思えます。
そんな「人の温もり」を感じる映画を昨日、観ました。「函館珈琲」(2016 西尾孔志監督)です。古い洋館風のアパートにはアーティスト(というかアルチザン)を目指す住人が暮らしています。装飾ガラス(トンボ玉)、テディベア、ピンホール・カメラなどの職人のタマゴです。そこに古本屋をやるという桧山という青年が新たにやってきて、他の住人との交流を通して自分の「居場所」を探し求めていきます。この桧山くんが得意としているのが、コーヒーを入れることで、彼の入れるコーヒーがゆったりとした時間をもたらし、それぞれが抱える事情や孤独をゆっくりと溶かしていくようです。この4人の距離感がとても良いのです! ピンホール・カメラで撮影する佐和に「動き出すまで待てばいいんじゃない?」と言われ、自分の本当にやりたいことから逃げ、目をそむけていた桧山は、他の住人やアパートのオーナーとの交流の中で自分から動き出すことを決意します。この佐和は対人恐怖症で、一日に人と一~二言の言葉しか発しないような女性だったのですが、彼女も一歩前に踏み出していきます。そして、トンボ玉職人を目指す一子を演じる片岡礼子さんがいいですよ! チャキチャキと元気ながら、哀しみを心に秘めている「大人」の女の役をナチュラルに体現しているのです。
オール・ロケしている函館の街の佇まい、ゆったりと流れる時間がアコースティック・ギターの音色のように心地良いのです。ラストで夏樹陽子さんが「ゆっくり立ち止まったり、考える時間をあなたが提供するのよ」と言うのですが、まさにそんな映画。昨今のただシステムを描くような映画が大手カフェ・チェーンのマニュアル通りに出される味とすると、こちらは目の前で丁寧に入れてくれる人のあたたかさがある極上の一杯です。
(ジャッピー!編集長)